(有)色彩環境研究室
 1994年設立。色の機能を環境開発とカラーセラピーの観点でアドバイス。人間の生理や心理に基づいた色彩を調査研究し、単なる流行や見た目の美しさにとどまらない、人間にとって本当に心地よい色彩空間「アメニティカラー」を目指している。住居、オフィスのインテリアから公共空間や景観まで、人間の居る環境に調和した色彩計画の実践を行っている。
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色と心の不思議な関係をアメニティに活かしたい
葛西紀巳子さん
日本大学で心理学を専攻。卒業後オリックスに初の女性の企画営業担当のひとりとして入社。5年後に退社し、インテリアデザインの専門家を目指して勉強をスタート。昼間はインテリアの専門校で、夜は青山製図で建築製図を学び、色彩は手当たり次第に独学。土日のデッサンを含めて寝ても覚めても勉強の日々を過ごす。1988年嶋環境設計の嶋佐知子氏に師事し、5年間インテリアデザイン、プランニング、執筆活動に携わる。その後、米国人経営のカラーデザイン事務所で、米国の色彩システムや高齢者に対するデザイン企画に関わった。1994年には、日本色彩学会に論文「ヨガを通して得られたくつろぎの色とその傾向」を発表。

2級建築士、日本色彩学会・評議員、日本アメニティ研究所・理事、公共の色彩を考える会・委員、日本インテリア学会・会員、(社)照明学会・会員、アメニティミーティングルーム・ゼネラルスタッフ、韓国釜山(財)都市発展研究所・訪問研究員、土木の文化財を考える会発起人、高齢者の五感研究会・会員

著書: 
「くらしの色彩物語ー住・環境・色彩アメニティー」
フロムライフ刊
アメニティ&カラー・プランナー
初めて会う方に名刺を差し出すと、「アメニティって、トイレのデザインをするのですか?」とか「アメニティなんてずいぶん古い言葉を使っているのですね」と言われることがあります。このアメニティという言葉が日本で使われ始めたのは、1977年にOECDから「日本のアメニティの無さ」を指摘され、環境庁が「快適環境」と訳してからです。
ちょうどバブル期で、アメニティは効率的で機能的で、物質的な豊かさが強調され、ボタンひとつで全開する窓や、短時間で調理できる家電、大理石風呂など、便利で効率的で贅沢なことが豊かで快適だと、代名詞代りに「アメニティ住宅」「アメニティ・オフィス」などと紹介されたのです。ですから、バブル経済が崩壊すると、アメニティという言葉もあまり使われなくなってしまったのです。
けれど、アメニティの語源はラテン語のアマ−レ「愛」で、それが形容詞のアモエニタス「心地よさ、快適性」になり、英語のアメニティ「快適性」となったのです。ですから、アメニティには利便性や効率性のことばかりでなく、その根本的なところに愛や思いやり、優しいなどが内在しているのです。
また、アメニティ活動は工業化に伴う大気汚染、水質汚濁などによる人命の犠牲を改善するという取組みです。
私が名刺に
「アメニティ&カラープランナー」と記すのはそうした「愛」と「生命」を基本にした本来のアメニティをすすめているからです。それは単に美しさや便利で機能的なことばかりでなく、思いやりや真の優しさから求められる美と調和、歴史や風土、そして人間の心理や生理を含めた上での環境を、色彩の側面からとらえていくことを目指しているからなのです。
色彩のアメニティ
私の仕事の領域は、自然と広域になります。例えば、住宅などの空間は心身ともにくつろぐ色を旨とする。街並みや景観を考慮して、建物の外観は周辺と調和する色彩設計にする。道路や橋、川辺などの土木構造物は、自然の色を調査して風景の一部となるような色彩を考える。病院、高齢者施設などには、ひとつのデザインで全てを網羅するのではなく、多様な選択肢を用意させるなどのユニバーサルデザインの思想のもとに、高齢者の色覚変化にも対応したサイン計画や、ウェイ・ファインディング・システム(人間の心理動向を推しはかりながら、色彩、サイン、アートワーク、照明などを総合的に組み合わせて、自動的に目的地に導く方法)など、いずれも目的や用途、環境を踏まえた多面的な観点からの色彩設計が必要とされます。それが、快適な環境をつくる要素になるからです。
そして、公に関わる色ほど、建築家や個人の好み、多数決で決められるものではないのです。
景観色彩ガイドライン
最近では、街並みや景観の色彩が話題にのぼる機会が増えてきました。これまでは色彩というと、ファッションやメイクといった女性的なもの、個人的なもの、感性によるもの、数値化しにくいもの、扱いづらいものとして、敬遠されやすいものでしたが、建築物や土木構造物の色彩についても関心が高まり、さまざまな自治体で、「景観色彩ガイドライン」が策定され始めています。
この「景観色彩ガイドライン」は、主に住宅地、商業地といった用途地域や、風土や地理的要素などの地域特性を勘案して、周辺と調和する外壁の基準色を示したもので、突出する不調和な色や騒色の氾濫を抑えていくことが目的です。
これらの色は、まず自然物を含めた周辺の色を測る(測色する)ことからはじめられ、そのエリア内で調和感の得られる色の範囲を求めていきます。日本ではJIS色票に基づいて、色相、明度、彩度の数値で表すようにしてから、行政内でも取り入れられやすくなったようです。
多様なかたち、素材の乱用や色彩の氾濫はある種の公害です。心地よい環境を作るためにも、景観色彩におけるルール作りは欠かせません。
そのためには、建築法規だけではなく、色彩の制約、素材の限定、さらに看板などの掲げ方にも全体としての統一とリズム感をもたせることも必要です。
色彩教育
政策の制定と平行して、建築に関わる人達への色彩やデザインの教育も重要です。特に建築や土木を学ぶ人のために、色彩教育の機会と実践の場をもっと増やすべきではないでしょうか。
建物自体の構造や材料だけでなく、風土や緑地計画、都市計画の中でその建物がどうあるべきか、どう見えるのかといったマクロな視野に立つこと、工学だけではなく農学的な視点も必要だと考えます。
さまざまの周辺環境との関係性、その土地の風土、歴史、文化、地理的要因、人々の生活を含めた目に見えない要素が、景観に映し出す場所の個性、
土地柄「土地カラー」になるのです。そのことを踏まえて、建築計画をしていくことが大切です。
色彩は感性によるもの、数値化しにくいものといわれますが、感性もまた、基礎があってこそ構築されるものです。基礎がなければ、その上に感性など宿るはずがありませんし、それ以上に、人間環境は数値だけで評価されるものでもないからです。
ですから私は、まちに住む市民たちが景観を評価する目、快適な環境を推し進める力を持つことも大切だと思っています。それで、一般市民をはじめとして、専門家や住に関わる人たちへの教育や啓蒙活動などにも積極的に力を注ぎ続けているのです。
変化や多様性に順応しやすい日本の風土は、時代を重ねていくうちに、人々からまちに対する礼儀や作法も奪ってしまったかのようです。
美しい景観や風景は、公に対する作法の善し悪しで決まります。個々が作法を守れるか、景観に対する哲学や誇りを持っているか否かが重要です。
これからは、美しい景観や環境が財産のひとつであると意識し、作品としての建築物ではなく、景観に配慮した建物や土木構造物を大きく評価していきたいものです。愛着と生命性に基づいたアメニティ、快適環境のためにです。
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